ブラックマネージャと部下に呼ばれないために|第7話 顧客生涯価値=CLV(Customer Lifetime Value)って?

「私たちは数字を追いかけているの?そうだとしたら私が毎日お会いしているお客様は何なの?数字なの?そうじゃない、決して、そうではない。私はお客様の役に立ちたいし、お客様の喜んだ顔が見たい。数字は後から付いてくるものでしょう。」

佐々木りえは、最近浮かない顔をしている北里浩介を昼食に誘い出し、何時の間にか熱弁を振るっていた。

「りえさん、それはそうかもしれないけど、そんな事、空野さんの前で言える?あの人の頭にあるのは数字だけだよ。上の人は皆そうだよ。そんなのわかってるじゃない。新人じゃないんだからさ。」

「それはそうだけど。。。。」

息子を保育園に預けられる様になり営業職に復帰したいという願いが叶えられた事に佐々木りえは感謝していた。

順調な時ばかりでは無かった。入社当時は今よりもまだまだ女性社員が働きやすい環境では無い中で、人並みに色々な苦労はしてきたが、その度に機転と時にはハッタリを利かせながら何とか切り抜け自分のポジションを少しずつ築いてきた。決して楽では無いけれどお客様と直に触れあえる営業現場が好きだった。だから復帰後も張り切り頑張ってきたが、発熱した息子を駆けつけて来てくれた母親に預けて出社しなければならなかった時には通勤電車の中でも涙が止まらなかった。育児休暇からの復職後は、これまでにも増して、「キチンとした仕事をしよう。」という気持に突き動かされて来た。

そんな中で、佐々木ならではのきめ細かい対応が顧客から褒められた時の充実感といったらなかった。だから追いかけているのは決して数字では無いと思っていた。その一方で自分の考え方が甘いのかなとも感じていた。企業である以上、売上や利益目標を持つのは当然で、それは最前線の一人一人の営業に数値目標として割り当てられる。確かにその数字を追うのも重要な気がする。

「でも、やっぱり数字を追っている訳では無い。」

佐々木は心の中で何度も自問自答を繰り返していた。


「顧客生涯価値=CLV(Customer Lifetime Value)…?」

目を白黒させながら自分を凝視している空野に対して富士は言葉を続けた。

「もう一度確認するけど、空野は、組織的な顧客管理や営業管理の仕組みを築く事の重要性は認識出来たね。」

空野は黙って頷いた。

「では、この仕組みをどういう目的で活用するべきだろうか?」

「?????」

「例えば、同じ時期に顧客管理・営業管理の仕組み(CRM)を導入した2つの会社があるとする」

CRMを活動量管理に使うA社

【A社のCRMの使い方】

  • 営業の活動量チェック。
  • 効率性(商談期間、受注率)を管理。
  • 顧客の短期的な顕在ニーズの把握。
CRMを気づきの共有に使うB社

【B社のCRMの使い方】

  • 顧客に関する「気づき」を記録。
  • チームで情報共有、アイディア出し。
  • 顧客の中長期的な潜在ニーズの把握。

「A社とB社どちらが良い悪いでは無くて、ハッキリ言えばどちらも大事。ただ、A社の使い方だと、上手く活用すれば、直ぐに効果が表れるかもしれないけど、これだけでは効果が長続きしない場合もある。」

「???、それは何故だろう?」

「まず、営業の活動量の見える化や効率性向上を図るのは重要だけど、それだけを過度に重視すると、却ってモチベーションを低下させる事になりかねない。ひどい場合は、営業が嘘の報告を慢性的にするようになる。一度そうなると折角導入したシステムが形骸化して誰も本気で使おうとしなくなる。」

「それから、やっぱりこの考え方だけでは、自社目線で、ともすれば、顧客をひとつの商談、ややもすると数字と捉えて、これをどう効率的に攻略するかという考え方に基づいている気がする。」

「なるほど。」

 富士は続けた、「一方で、B社の使い方は、中長期的なニーズを理解して、これに対して組織として最善な提案をしていこうという考え方に基づいている。この使い方なら、短期的にはCRM導入の効果が見えづらくても、顧客と長期的な関係を築いて、顧客内でのシェアを高められるかもしれない。」

「急がば回れということかな。」空野は唸った。

「成熟市場では、1:5の法則と言って、新規顧客を獲得する為に必要な費用が、既存顧客を維持する為の費用の5倍は掛るとされている。つまり、既存顧客の生涯価値を如何に高めるかを図る事が、翻っては自社の業績を高める為の正攻法なんだよ。」

「その為には顧客の事をよく理解して、組織として、付加価値の高い提案をし続けなければならない。勿論、効率化も大切な事だけど、折角CRMを導入するなら、導入目的の優先順位をどこにおくかをよくよく考えるべきだと思うんだ。」

富士のメッセージに共感を覚えつつ、空野は何故か佐々木りえの事を思い浮かべていた。

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